■ 研究概要

a. 新プラズマ源の開発  b. プラズマ診断・制御  c. 材料処理プロセス 

a. 材料プロセス用の新プラズマ源の開発

メートルサイズコンパクトマイクロ波プラズマの開発

研究背景化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition ; CVD)は気相中又は基板表面での化学反応により原料ガスを解離させ、膜を堆積させる方法です。 プラズマCVDは化学反応を起こすために気体放電を用いており、低温で緻密な薄膜を形成できる、熱分解温度の異なる原料同士を用いても、様々な組成比の薄膜を形成できるなど多くの利点を持つため、太陽電池や液晶ディスプレイの作製、材料の表面硬化などに利用されています

   

近年では製品の低コスト化を進めるため、プロセスの大面積化が進んでおり、それに伴って大面積・均一な高速処理が求められているため、大面積・均一な高密度プラズマ源が必要とされています。 しかしながら一般的に用いられる容量結合型プラズマでは大面積に均一成膜可能な反面、プラズマ密度が低い(〜1010 cm-3)ため、処理速度向上が難しいという欠点がありました。 誘電体窓にマイクロ波を入射することによって生成される表面波波プラズマは高密度(〜1012 cm-3)で低プラズマ電位(=低ダメージ)のプラズマを比較的容易につくることができます。

一方で、表面波プラズマは大面積化にともない誘電体窓のサイズが波長のサイズに対して無視できなくなると、プラズマの不均一化が生じる原因となります。 また、誘電体窓(石英板)から薄膜へ不純物が混入することも問題となります。

目的と概要本研究では大面積で均一、低不純物の高密度表面波プラズマ生成を目指しています。
その手法として、導波管内に誘電体を充填することによって誘電体露出を抑制する手法を考案しました。 この方式では、誘電体を充填した導波管内をマイクロ波が伝搬し、設置したスロットからマイクロ波放射を行いプラズマ生成を行います。 また、誘電体中を伝搬するマイクロ波は誘電率に応じて波長が縮小するため、導波管断面が小さくなり、装置がコンパクトになります。 導波管なので長尺化が容易であり、装置がコンパクトになったのでアレイ化もしやすく大面積化も可能となります。


大気圧マイクロ波放電による高密度長尺ラインプラズマの開発

研究背景プロセスプラズマは一般的には低圧力下での放電によって生成されますが、近年では大気圧のような高圧力下で生成される低温プラズマに注目が集まっています。 大気圧プラズマは真空装置が不要であり、種類によっては高密度なプラズマ生成が可能で、低ガス温度、薬剤を使用しないことから 低コストで高速、低ダメージで低有害性のプロセスが期待できます。 これらの特性を生かし、プラスチック、樹脂フィルム、生体、食品などの様々な材料に対して、表面の洗浄や殺菌、撥水・親水化処理や薄膜形成など幅広い応用が期待されています。
産業応用においては効率の面で、大面積かつ高密度・空間均一なプラズマ源であることが望ましいと考えられます。 コロナ放電や誘電体バリア放電は装置構成が簡便かつ低温のプラズマが生成でき大面積(長尺化)が容易である一方で、プラズマ密度が低く(〜1012 cm-3)処理速度が遅いことが問題となります。 マイクロ波放電によるプラズマは分子ガスを用いても比較的安定して高密度非平衡プラズマの生成が可能です。しかし、電磁界分布が波長(定在波)に強く依存しており、圧力が高いため拡散が小さくなるのでプラズマが広がりにくく、空間(線)均一なプラズマを作るのは困難でした。

目的と概要本研究ではマイクロ波放電による長尺で高密度かつ均一なプラズマ源の実現を目指しています。
プラズマ生成部であるアンテナ構造を下図のようにループ型とすることによって定在波を抑制し、長尺高密度プラズマの生成に成功しました。 現在は生成されたプラズマの特性評価、生成効率の向上及びプロセス応用に関する調査をおこなっています。

マイクロ波励起液中プラズマの開発

研究背景近年、大気汚染、土壌汚染、水質汚濁など、環境汚染問題が深刻化しています。 中でも、発展途上国を中心とし、水質汚濁による環境汚染が深刻で、合成染料や医薬品、農薬など有機化合物による汚染が深刻です。 そういった状況を受け、現在の排水処理の現場では、一般に「生物学的処理法」と「物理化学的処理法」が複合的に用いられています。 生物学的処理法は安価なプロセスが可能ですが難分解性物質の分解が困難であり、大量の廃棄汚泥が発生する問題があります。 物理化学的処理法は高効率な処理が可能で、制御が容易でありますが、薬剤添加が必要でさらに大量の廃棄汚泥が発生することから、 今後より高度な処理が可能でプロセス後の環境負荷が小さい水処理技術が要求されます。
そこで近年「促進酸化法」と呼ばれるものが注目されています。 促進酸化法は紫外線や様々な活性種のもつ酸化還元電位を利用して水中の有機物を酸化分解処理する手法で 難分解性物質の分解可能、二次廃棄物の不発生、殺菌などの複合的な効果が得られるといった特徴があります。

目的と概要本研究では高効率・大流量液体処理装置の開発を目指し、水由来活性種の中では酸化還元電位の最も高いと言われているOHラジカルなどの活性種を効果的に生成できる液中プラズマに着目しました。 プラズマ生成法としてパルスマイクロ波を用いた方式を採用しています。この方法は、電極のダメージを軽減し、かつスロット面積を拡大することが可能であるため、を期待することができます。 また、これまでの研究から、プラズマ生成環境を減圧化することにより、水の蒸気圧の関係から沸点を下げることができるので、効率よく液中でのプラズマ生成ができることが明らかとなっています。

ポンプなどを使用せずに減圧環境を生成するために、ベンチュリ効果を用いたインライン型のマイクロ波プラズマ装置を開発しました。 「ベンチュリ効果」とは流体の流れを絞ることで流速を増加させ、低流量部に比べて低い圧力を生み出すという効果です。 この部分にスロットアンテナを設けることにより、効率的なプラズマ生成が可能となりました。現在は溶液中の有機物の分解性能の評価及び分解機構の解明に関する調査をおこなっています。