研究概要

(2) ネットワーク制御

 

インターネットトラフィックの予測アルゴリズム

ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)やFTTH(Fiber To The Home)をはじめとするブロードバンドアクセスの急速な普及に伴い、 ネットワークを流れるトラフィック量(通信量)は爆発的に増加しています。この膨大なトラフィックを効率よく伝送するために、必要に応じて通信経路の切り替えを行う、またはあらかじめ通信経路選択に工夫をするなどして、 ネットワークの負荷分散(通信の偏りの分散)を行うことが有効です。また、ネットワークの低消費電力化の観点からは,或る時間帯で流れるトラフィックの少ないネットワーク機器については、トラフィックを他に迂回させることにより、 機器の電源をオフにして省電力化を図ることが有効です。

このような各種の要求に応じた経路制御を行う場合、伝送中のサービストラフィックが途絶えないように十分な通信容量の確保を行い、同時に制御遅延を見越した処理が必要となるため、 数分から数時間後のトラフィック量を予測する技術が重要となります。また定常状態のインターネットトラフィックの変動は、ネットワーク利用者の総数やその接続の平均的な傾向もほぼ一定であることから、日・週などの周期性が顕著になります(図1)。

本研究課題では、上述のトラフィックの周期性などを利用しつつ、より短時間のトラフィック変動も考慮した上で、トラフィック量を予想することを目的としています。

 

トラフィック予測をベーストする適応的ネットワーク制御

ニコニコ動画やYouTubeといった動画配信サービスの登場により、ネットワーク内に流れている情報量(トラフィック)は年々爆発的な勢いで増加しています。 今後も高精細動画配信サービスや3DTVといった新たなアプリケーションの拡大によりトラフィック量は増加し続けると予想されています。 時間帯毎に区切ってトラフィックを見てみると、多量のトラフィックが流れている時間帯と少量のトラフィックが流れている時間帯とが存在します(図1)。 また、オフィス街と住宅街といった場所にも時間に応じたトラフィックの変動が存在しています(図2)。

フォトニックネットワークにおいて、通信を行うためには通信路(光パスと言います)の設定が必要になります。 図1、2で示したように、トラフィックには偏りがあるので、時間帯によって最適な光パスの設定(本数や経路)は異なります(図3)。 そこで光ファイバや中継器といった伝送機器やノードのルータやイーサネットなどの機器を、ネットワーク内を流れるトラフィックの経路や電気/光パスの容量・本数などをトラフィック変動に応じて適応的に制御して、 効率的にネットワークを使用することができるネットワーク制御アルゴリズムを考案します。

トラフィックの周期性
図1   トラフィックの周期性

場所別のトラフィック
図2   場所別のトラフィック

時間帯別最適な光パス配置
図3   時間帯別最適な光パス配置

 

トラフィック制御によるルータシステム並びにネットワークの超低消費電力化

ICT分野で消費される電力は年々増加し続けており、低消費電力なネットワークの実現が求められています。 今後更なるネットワークトラフィックの増大に伴い、ルータシステムにおいて処理するパケット量の増大に伴い、特にコア・メトロネットワークにおける消費電力が爆発的に増大することが予測されており、この低消費電力化が課題となっています。

現状のルータでは、処理しているパケット量によらずほぼ一定の電力が消費されています。 これは、常時最大限の性能でパケットを処理し、常に最大の性能を発揮することを優先し、トラフィック量に応じた処理能力の適応制御機構を持っていないためです。 一方、ネットワーク中を流通するトラフィック量は人間の活動に大きく影響され、時々刻々変化しており、トラフィック量は時間的に大きく変動します。 したがって、ネットワーク内のトラフィック量が少ない状態のルータの消費電力を下げれば、実環境での消費電力を大幅に減らすことが可能になります。

本研究では、ネットワーク機器を制御することにより、受信パケット量が少ない時にパケットロスを防ぎつつネットワークの転送性能を必要最小限に制御することで,ネットワークの消費電力を下げることを目指しています。

 

超大規模ネットワーク制御技術

一般にバックボーンネットワークのような大規模ネットワークでは、異なる通信キャリア(通信事業者)のネットワークが相互接続されています(図4)。 将来、UHDTV(Ultra High Definition TV)などの様々なアプリケーションの登場よる更なる通信量の増大に伴い、更なる光ネットワークの大規模化が予想されています。 このような状況に対応するためには、ネットワークの効率的制御が重要となります。

一方,各通信事業者はセキュリティなどの観点から、ネットワーク形状・光ファイバの本数・混み具合の状況などの詳細なネットワーク情報を他の通信事業者に公開しません。 そのため、異なる通信業者のネットワーク間をまたぐような広域通信においては、最適な通信経路の設定が困難な状況にあります。 更に、ネットワーク全体が大規模化することにより、通信経路の計算や通信路の設定に必要な時間が増大する一方で、大容量でリアルタイム性を要求するアプリケーションの登場に伴い、 通信路の設定に要求される時間もより短くすることが求められています。

本研究では、上述の問題に対して検討を行い、超大規模ネットワークを効率的に制御するアルゴリズムを開発することを目的としています。

バックボーンネットワーク
図4   バックボーンネットワーク

 

コア/エッジにおけるトラフィックコントロールの最適化とその実現技術

現在、工事中です。

 

複数の(光/電気)レイヤにまたがるトラフィック制御(エンジニアリング)技術

現在、グリッドコンピューティング・TV会議をはじめとして広帯域・大容量アプリケーションが登場しています。 これらのアプリケーションはリアルタイム性を有しており、帯域(通信速度)の保証が要求されています。 また,ASON (Automatic Switched Optical ネットワーク) やGMPLS (Generalized Multi-Protocol Label Switching) に基づくネットワーク制御技術が進展しており、 通信事業者は動的に帯域を提供する新サービスが実現可能となっています。 特に北米の大手のキャリア、AT&TやVerizonにおいて,ダイナミックな専用線サービス(電気パス)の提供が開始されました。 また、動的に通信路を制御することで、限られたネットワークリソースを有効活用することができます。

当研究室では光/電気の階層化ネットワークにおいて複数の階層における光/電気パスを要求に応じて適応的に設定しネットワークリソースを効率的に利用するための、波長・経路割当アルゴリズム、 電気パスの効率的な収容設計アルゴリズムを含む各種のトラフィック制御技術を開発しています。

 

次世代通信プロトコル

ADSL(Asymmetric Digital SubscriberLine)やFTTH(Fiber-to-the-Home)等のブロードバンドアクセスの急速な進展により、基幹ネットワーク上の通信量は爆発的に増加しています。 また、IPTV(Internet Protocol TeleVision)、HDTV(High De_nition Television)等の大容量データ通信を必要とする新たなブロードバンドサービスの登場により今後もこの傾向が継続すると予想されています。 このため、次世代基幹ネットワークでは,超大容量化に加え、通信回線の動的な制御によるネットワーク資源の効率的な運用が必須となります。

超大容量化は、現在の通信単位である単一波長の光回線(波長パス)を複数論理的に束ねた波長群パスを導入することで実現可能となります(図5)。 また、動的制御は、様々な特性を有するパスを統一的に扱うプロトコル(通信規約)であるGMPLS(Generalized Multi-Protocol Label Switching)によって実現されます。 しかし、GMPLSプロトコルの標準化は波長パスを扱うレイヤにとどまり、波長群パスのGMPLS 上での扱いは未だ標準化には至っていません。

本研究では、様々な論理構造の波長群パスを許容するGMPLS波長群拡張、新しいネットワークに必要な各種通信プロトコルの開発を目指します。

波長群パス
図5   波長群パス