研究概要

(1) 通信ネットワークアーキテクチャとネットワーク設計

 

大規模ネットワーク設計

現在、光通信の中継ノード(基地局)における電気処理をカットスルーすることで、超高速かつ低消費電力な通信を実現するフォトニックネットワークの導入が,国内外のバックボーンネットワークにおいて始まっています。 現状のフォトニックネットワークは高々数十ノード規模ですが、将来の更なるトラフィック増加により今後は数千ノード規模の大規模フォトニックネットワークが構築されることが予想されます。

このフォトニックネットワークの大規模化を妨げる要因として、(i)再生中継器なしでの通信可能な距離が制限されることと、(ii)設計・維持・管理コストがノード数に応じ急増することなどが挙げられます。

(i)  再生中継器なしでの通信可能な距離が制限される

光信号は光ファイバを伝搬する際に、また中継ノードを通過する毎に徐々に劣化します。そのため長距離伝送においては一定距離毎に再生中継器を挿入し、 信号の増幅・波形整形が必要になります。しかし、信号の再生処理は高価で消費電力も大きいため、極力回避しなければなりません(図1)。

(ii)  設計・維持・管理コストがノード数に応じ急増する

光通信では同一ファイバ内には同一波長信号が共存できないという制約があり、この制約を満足するように通信に用いる経路と波長割当を行う必要があります(図2)。 この波長割当を伴う通信経路決定問題は“NP完全”であることが知られており、ネットワークが大規模になると最適解を求めることが事実上不可能になります。

本研究では、フォトニックネットワークにおける前述の大規模化阻害要因の克服を目指します。

光信号の劣化・減衰
図1   光信号の劣化・減衰

波長制約
図2   波長制約

 

故障に対する耐性の高い高信頼なネットワーク設計

ネットワークでは工事や人為的ミスにより、ファイバが切断される等の故障が発生します。 様々な重要情報がネットワーク上を流れる現在においては、このような故障が発生した際に即座に通信の復旧を行うことが可能な、即ち高信頼なネットワークを実現することが求められています。 この要求を満たすために、実際に通信を行なっている経路(現用経路)とは別に、予め故障が発生した際に使用する経路(予備経路)を決めておく”プロテクション”(図3)、故障が発生した段階で 予備経路を計算する“リストレーション”(図4)などの障害復旧手段があります。

これらの手法を用いることで高い信頼性を確保することが可能となる一方、予備経路にリソースを割り当てなければならないため、現用経路のみの設計に比べてファイバ数や通信ノードのコストは増加します。 しかしファイバや通信ノードにかかるコストは一般に高価であるため、可能な限りその増加を抑えることが必要となります。

当研究室では、これらのコストの増加を最小限に抑えると同時に、高い信頼性を確保することが可能なネットワーク設計法を開発しています。

プロテクション方式
図3   プロテクション方式

リストレーション方式
図4   リストレーション方式

 

故障に対する耐性の高い高信頼なネットワーク設計ビットレート・距離に応じたフレキシブルな光ルーティングネットワークアーキテクチャとネットワーク設計

現在、YouTubeやUSTREAM等のストリーミングサービスの普及に伴い、ネットワークを流れる通信量は増加しています。 さらに将来の超高精細動画配信サービスの登場が予想され、さらに増加する通信量に対応するため、光ファイバの限られた周波数帯域を効率的に利用する必要があります。

従来の光通信では、国際標準化機関ITU-Tで標準化されたITU-Tグリッドと呼ばれる固定周波数帯域幅が割り当てられ通信が実現されていました。 最近、Spectrum-sliced elastic optical path ネットワーク (SLICE)とBit-rate Adaptive (BA) modulationやDistance Adaptive modulation (DA)という技術を導入することにより、 その通信需要に必要最小限の周波数帯域幅を割り当て、効率的な通信を実現する技術が開発されています。

例えば,通信の失敗を招く雑音は通信距離が長くなると大きくなるため、下図に示すように、通信距離が近い通信には狭い周波数帯域、遠い通信には広い周波数帯域を割り当てます。

本研究の目的は、これらの技術を用いることによって削減される割当帯域を最大化し、効率的なネットワークを設計するアルゴリズムを開発することです。

SLICEとDAによる割当帯域削減効果
図5   SLICEとDAによる割当帯域削減効果

 

階層化光ネットワーク設計

従来のHTTP、FTPなどのデータ通信に加え、今後は超高精細映像配信を含む動画を中心とした新たなサービスの出現が予想され、爆発的な通信量の増加が避けられない状況にあります。

現在、光ファイバ中に複数多重された光信号に対し、異なる波長をラベルとして各光信号の経路選択を行う「光ネットワーク技術」の研究が進展しています。 「波長パス」と呼ばれるファイバ内の各光信号を転送単位とした「一階層光パスネットワーク」が国内外で実用化され始めています。 しかし、将来予想される通信量の増加に対処するためには更なるネットワークの大容量化と効率化が要求されますが、 現状では光信号の経路選択機能を実現する光スイッチの大規模化が困難であるという課題があります。

例えば,通信の失敗を招く雑音は通信距離が長くなると大きくなるため、下図に示すように、通信距離が近い通信には狭い周波数帯域、遠い通信には広い周波数帯域を割り当てます。 一階層光パスネットワークの限界を打破すべく、複数の波長パスを論理的に束ねる「波長群パス」の概念を導入した「多階層光パスネットワーク」が注目されています。 ファイバ中の各光信号を波長パス単位で個別に処理する一階層光パスネットワークに対し、複数本の波長パスを一括して転送処理することにより必要となる光スイッチ規模を抑制することが可能となります。

この光スイッチ規模の抑制効果を最大化するためには、多階層化した光スイッチ自体の構成に関する検討(参照:超大容量フォトニックルーティングシステム/ノードの研究)だけではなく、 ネットワーク全体に渡る最適化を行う「光ネットワーク設計問題」が非常に重要な課題となります。これは光パスを各ノード間に必要本数だけ確立するという条件の下、 各光パスに適切な経路・波長を割り当てスイッチ・ファイバ等のコストを最小化するものです。しかし、同一ファイバ内には同一波長の光パスが共存できないという制約のため、 この問題は従来の一階層光パスネットワークに対しても最も計算困難なクラスのNP完全問題であることが知られています。多階層光パスネットワークは、 更に波長パス・波長群パスが入れ子構造となる階層的なパス構造を要求するので、一層困難な問題となり最適解の導出が事実上不可能です。

本研究室では、この問題に対し発見的手法を用いて、準最適解を導く効率的な階層化光ネットワーク設計アルゴリズムを研究しています。 ネットワークコストの低減を目標とするだけでなく、予備回線の確保による高信頼化設計法、階層型光スイッチの制約を考慮した設計法など、様々な条件を考慮した複合的な設計問題に取り組んでいます。

階層化ネットワーク
図6   階層化ネットワーク

WBXC
図7   WBXC

ポート数削減効果
図8   ポート数削減効果

波長衝突
図9   波長衝突

 

高速光回線交換ネットワークアーキテクチャ

通信量の急激な増加の背景には、単にインターネットの普及だけではなく、ネットワークの使われ方が音声やファイルの転送といったデータ主体の通信からYouTube・USTREAMなどの登場により映像主体へと移行しつつあることが挙げられます。 今後も映像技術の高精細化からUltra-HDTV(72Gbps/channel)のような超高精細映像技術の登場・普及が予想されています。

これらの大容量かつユーザ主体のサービスを効率良く提供していくには電気的なパケット通信を用いるよりも、低消費電力・超高速を特徴とする光で通信を行うことが適しています。 現在のデータ主体のインターネットに加え、大容量かつ帯域を占有するコンテンツ向けに光回線ネットワークをオーバーレイしていき、用途に合わせて使い分けていくことが将来の望ましいネットワーク形態と考えられます。

例えば,通信の失敗を招く雑音は通信距離が長くなると大きくなるため、下図に示すように、通信距離が近い通信には狭い周波数帯域、遠い通信には広い周波数帯域を割り当てます。 一階層光パスネットワークの限界を打破すべく、複数の波長パスを論理的に束ねる「波長群パス」の概念を導入した「多階層光パスネットワーク」が注目されています。 ファイバ中の各光信号を波長パス単位で個別に処理する一階層光パスネットワークに対し、複数本の波長パスを一括して転送処理することにより必要となる光スイッチ規模を抑制することが可能となります。

本分野では、その光回線の動的操作に適したネットワークアーキテクチャ並びに制御アルゴリズムの研究に取り組み、次世代のネットワークアーキテクチャの創出を目指しています。

将来のネットワーク
図10   将来のネットワーク

 

光フロースイッチングネットワークアーキテクチャ

 
 

光/電気階層化ネットワークの最適化

近年のインターネット利用者の急増に伴い、ADSLやFTTHなどのブロードバンドアクセスが急速に進展し、トラフィック量並びにネットワークの消費電力が大幅に増加しています。 また、現状のインターネットバックボーンなどの広帯域IPネットワークにおいて、波長多重(Wavelength Division Multiplexing: WDM)伝送技術が用いられていますが、 すべての波長がノード毎に終端されるポイント−ポイントシステムであり、すべての中継ノードで光−電気−光(O-E-O)変換が必要となり、トラフィックの増加に伴いO-E-O変換のコストの増大も大きな課題となっています。 これらの問題を解決するために、光のままルーティングを行う波長ルーティング技術をノードに導入するフォトニックネットワークの実用化が進められています。

今後、トラフィックが急増を続けた際に、光ノード技術の広範囲に渡る導入が考えられるため、当研究室では電気レベルでフォワーディングされるネットワークに、 OXC(OpticalCross-Connect)により光レベルで波長ルーティングされる光領域のネットワークを導入して階層化した、階層型ネットワークを対象とし、大規模ネットワークに適用できる効率的なフォトニックネットワーク設計手法を考案し、 ネットワークにおけるコストの削減とネットワーク設計に必要となる計算時間の削減を目指しています。

 

超低消費電力ネットワーク

近年、ブロードバンドアクセス(ADSLやFTTH等)の急速な普及に伴い、通信量は急激に増加し続けています。 今後もUltra-HDTV(72Gbps/channel)のような超高精細映像技術の登場・普及により、更なる通信量の増大が予想されます。 またこのような通信量の増大に伴い、通信装置における消費電力も増大しており、2007年時点で通信装置の総消費電力は80億kwh超にも及んでいます。 今後の更なる通信量の増大に向けて、消費電力対策を行うことが必須となります。

現在のネットワークでは、中継局において光信号を一度電気信号に変換しルーティング処理を行うとともに、再び光信号に変換するO/E/O変換処理を行っており、消費電力増大の原因となっています。 そこで、中継局において光信号を光のままルーティング処理することで電気でのルーティングとO/E/O変換処理を省略し、低消費電力を実現するフォトニックネットワークが導入されつつあります。

本研究室ではフォトニックネットワークを始めとする超低消費電力ネットワークに関する様々な研究を行っています。