長谷川浩准教授 (Hiroshi Hasegawa)

プロフィール (長谷川浩准教授)

長谷川浩准教授

学位 : 博士(工学)
所属 : 名古屋大学 大学院工学研究科
情報・通信工学専攻
情報ネットワーク研究グループ 佐藤健一/長谷川浩 研究室
住所 : 愛知県 名古屋市 千種区 不老町 IB電子情報館 北棟6F(東側)
Fax : +81-52-789-3641
Tel : +81-52-789-3641
E-mail :

研究 (Publications)

情報通信においては、取得された受信信号は様々な劣化を受けている。劣化には通信路上での歪みやノイズ、干渉信号によるものや、通信速度などの制約に適応するための圧縮に伴うものなどがある。 最近の通信ネットワークでは、データが「パケット」と呼ばれる一定の大きさのブロックとして送受信されることが多く、このパケットの消失・遅延が大きな問題となりうる。 このようにして劣化した受信信号から、所望信号を適確に推定し抽出することが情報通信における基本的な問題である。

私はこれまで、所望信号を高精度に推定するための手法として時間周波数解析に注目し、一方では所望信号抽出の実現のためのシステムについての研究を行ってきた。 昨今の画像信号処理の要請の高まりにあわせ、所望の高精細画像信号の推定と抽出とを行うための、超解像画像復元問題にも研究分野を広げた。 さらに現在では、近年の社会の高度情報化に対応するため、柔軟かつ高速な通信ネットワークを実現するための基盤技術の開発を行っている。

通信ネットワーク基盤技術の開発

ブロードバンドアクセスが急速に増加し、情報をいつでもどこでも好きなだけ、そしてかつ高速に引き出したいという要求が徐々に実現に向かっている現在、 柔軟性に富む超高速ネットワークが社会にとって必要不可欠なインフラとなってきている。 このようなネットワークの設計・実現の基盤技術を開発し、一方ではネットワーク資源を有効に活用するためのトラフィック制御の理論や手法を開発する(下記参照)。

  1. 高速ネットワーク設計・実現の基盤技術と、それを支える数理的アプローチの検討。
  2. 決定論的とも呼べる厳密な品質制御(ATM)と、品質制御なし(QoSを考慮しないIP通信)との利点を兼ね備えるための、統計量を活用したトラフィック制御の検討。
  3. 伝送速度にボトルネックがある通信路上で、伝送ロスに敏感なアプリケーション(動画等)の品質を維持するための検討. 通信制御・クライアント側での処理を活用した上での品質維持を目的とする。
超解像画像復元(Super-Resolution Image Recovery)

超解像画像復元では、ノイズや画像取得システムの制約に起因する画像劣化を補償すると同時に、要求される高い解像度を有する画像を取得することを目的とする。 超解像画像復元は、偵察衛星や天体観測における超高精細画像取得への応用ばかりでなく、廉価かつ高性能な撮像システムの実現等にも応用が期待されている。 最近は高精細なHDTVシステムの普及から、圧縮が不可避であるデジタル動画において、連続するフレームの冗長性を利用し、圧縮による劣化を補償しつつ高精細画像を算出する問題が重要となってきている。

時間周波数解析(Time-Frequency Analysis)

いかに所望信号を特徴付け、それを取り出せばよいだろうか?現実の世界の運動は、フーリエ変換により正弦波の和として表現することで理解が容易になることは周知の事実だろう。 物理学者で時間周波数解析の提唱者 L.Cohen は、その著書「時間周波数解析」で正弦波による信号分解の有効性を裏付ける理由を幾つか述べている。 例えば、世の中の運動を支配する運動方程式の解は単純な正弦波で表されることが多いことなど。一方では、信号の周波数(=変動の早さ)は時刻により常に移り変わっていることも事実であろう。

時間と周波数に関する信号の同時表現を実現するために、短時間フーリエ変換やWavelet変換によるものが知られている。 しかし、Wavelet変換に よる基底は、残念ながら物理現象に直結する正弦波ではない。 また、短時間フーリエ変換などの「窓掛け」テクニックについては窓の形状による信号解像能力の 劣化が問題となる。

そこで、時間周波数解析では、まず時間と周波数それぞれに関するエネルギー(=2次モーメント)分布を考える。これらはParsevalの等式で結び付け られており、積分すれば同様に総エネルギーを与えてくれる。 そして、この二つの分布を周辺分布として結び付けるような2次元分布「時間周波数分布」を構築 するのである。この分布は、どの時間・周波数に信号のエネルギーが局在しているかを示してくれる。 実際には、信号から分布への変換は、核関数と呼ばれるパ ラメータにより特徴付けられた変換として陽に与えられている。

時間周波数解析に基づく信号解析を実現するためには、(i)核関数は信号解析の要求に応じて適切に決定されることが必要 (ii)時間周波数分布の計算には手間がかかるために、 リアルタイム性を要求される応用では分布計算の回避が望まれるといった要請があり、私は下記の研究を行っている。

  • それ自体が信号検出に用いられる高次モーメントについてその変動を評価する,新たな離散時間周波数分布を提案している.さらに信号解析に求められる能力と核関数への制約との関連を明らかにして、 制約を可能な限り満足する核関数の設計法を提案している。(論文5)
  • 信号部分空間への射影として定義される時変フィルタリングにより、時間周波数分布を直接計算せずに、特定の時間・周波数に局在した離散時間信号の成分を抽出することが可能であることを示している。 これにより時間周波数解析に基づくリアルタイム処理の実現が期待される。(論文7)

今後も、時間周波数解析に基づく信号解析手法を確立するために様々な課題に取り組んでいきたいと考えている。

多次元システム解析・設計(Multidimensional System Analysis/Design)
  • システム安定性判別問題の研究

多次元システムの安定性判別問題は、システムの実現可能性を調べる上で きわめて重要である.この問題に関して、

  1. システムの安定性が伝達関数の分母多項式における連続位相の周期性に等価であることを示すと共に連続位相を有限回の四則演算で算出する方法を与えている(論文1)。
  2. 安定性が保証される分母多項式の係数変動範囲を $\ell_{p}$ 距離として評価する手法を提案している(小論文1)。
  • 最良近似問題に関する研究

多くの場合、システムの設計問題は与えられた制約の中で何らかの評価関数を最小化するシステムパラメータを求める問題として定式化される。この問題に関して、

  1. 多様な設計仕様に容易に対応可能な設計手法を提案している(論文2,4)。 提案手法では、与えられた各設計仕様を満足するパラメータの集合をそれぞれ閉凸集合として表現し、閉凸集合族への凸射影を計算し合成することで、最適解を逐次的に近似す るパラメータ列を構築するという、 非常に汎用性の高い実現法となっている。
  2. 分母固定型有理関数による多項式の重み付最小2乗近似問題において、最適解は直交射影定理により特徴付けられ、正規方程式を解くことによって得られる。 従来は数値積分により正規方程式の係数を算出していたため、数値積分誤差が不可避であった。 これに対し、与えられた多項式の係数から直接得られる線形連立方程式を解くことで、最適分子多項式が算出可能であることを示している(論文6)。 また、重み関数が定数である場合には、division algorithmの剰余として最適解が得られることを示している(論文3)。

大学教員としてのこれまで

学部から学位取得、そして助手として5年間、東京工業大学にお世話になっていました。 研究内容は一貫して情報通信にかかわる基礎研究でしたが、助手としては大学に様々な形で関わっていました。

東京工業大学NOCの一員として: (注: この文は東工大在籍時代に記述)

助手になって最初の3年間は、学術国際情報センター 情報基盤部門情報流通分野 に専攻からの協力教官として赴任しておりました。ここは通称 NOC (Network Operation Center) と呼ばれるところで、学内全体のコンピューターネットワーク管理が任務です。

東工大規模の「大学全体」ともなると管理はかなり大変です。台数がまず多いですので機器の故障もありますし、機器同士の調停にも手間がかかります。 例えば、部屋の中の通信不良なら、椅子から腰を上げてケーブルが抜けているかどうか調べればよいですよね?でも、建物を結ぶ光ファイバーならば、ことは簡単ではありません。 切断地点をほぼ特定しないと修理費用がかさんでしまいますから、端点から光のパルスを入れて反射して戻ってくるまでの時間を調べたりします。もちろん、最新のネットワーク情報、セキュリティ情報を収集し、 次世代のネットワークの構想を練ったり、学内管理者からの相談に答えるのは当然の義務です。その他にも映像音声伝送機器の保守や、学内へのサーバ代行サービスなども在任中に新しくはじめました。 そして、何気なく学内で使っている高速なネッ トワーク「Super TITANET」の導入にもかかわりました。動くまでには苦労がありましたけれども、 それ以前の旧式ネットワーク(日立製Σ600とFDDIリングの組み合わせ)に比べれば安定性も通信速度も劇的に向上して、評判は上々です。

幾つかの他大学を訪問し、NOCの方と話をする機会がありました。比較する他大学にも拠るのですが、東工大NOCのメンバー数は少ないほうです。 一方で、 出荷が始まったばかりの最新鋭の機械を多数導入して、メーカーにバグ報告をするなど、技術レベルやactiveさでは他には絶対に引けをとらない部署だと思います。 学内でコンピューターをネットワークにつなげるとき、その裏では熱心に働いているメンバーが居ることを、少しでも思い起こしてくだされば幸いです。

研究室の助手として

NOC時代も研究室での学生教育に携わってきました。3年間の期間が過ぎて、「研究室の助手(正式な呼称ではありませんけれど、実態はこの言葉の通りです)」になりました。 研究室を運営する上で必要な業務をこなすようになり、教育を担当する学生数は多くなりました。

学生さんと難しい問題に一緒にチャレンジして、なかなか打開策が見つからず頭を抱え、いろいろ考えた挙句に霧が晴れたかのように解決策を見出したときの喜びはなにものにも変えがたいものがあります。 この喜びは大学を移っても変わることはありません。もしも、このHPをご覧の方が、ここの研究室に所属するこ とがあったならば、是非一緒に頑張りましょう!