A.大電力・大電流制御B.アーク・遮断器への新技法適用C.給配電システムの解析

B.   アーク測定および電流遮断に対する新技法適用に関する研究

大電流の遮断過程において遮断器内ではアーク放電が形成されます。 高いアーク消弧能力を持つ遮断器の開発には,アーク消弧過程におけるアーク特性を詳しく知る必要があります。 研究テーマB-1では,アークの特性としてアーク電圧や導電径を非接触で測定可能な新しい測定方法を研究しています。

これまでの私たちの生活では,各家庭やオフィスビルなどの電力の配電はほぼすべてが交流によるものでした。 一方でここ最近では,データセンターやオフィスビル内で直流給電を採用するところが増えつつあります。 しかしながら,後述するように直流用遮断器ではアークを迅速にそして確実に消弧することが容易ではなく, 直流アーク遮断の制御は非常に難しいものでした。 研究テーマB-2では,アークを発生させることなく直流電流遮断が可能な半導体型直流遮断器について その構成や遮断特性を研究しています。

B-1:消弧室内アークの電圧および点弧位置に対する非接触計測法の開発

電力用遮断器は,電力系統において落雷時や故障時に発生する故障電流を素早く遮断するために導入されています。 遮断器では,故障電流が流れた際に電極を開極することで電流を遮断しようとしますが, このときにFig.B-1に示すように電極間に高温のアーク放電が形成されます。 このアークは高い導電性を持つことから,電流はアークを介して電極間を流れ続けてしまい,電流遮断ができません。 ガス遮断器は,この高温のアークに対して消弧ガスを吹き付けることでアークの温度や導電性を低下させ,電流遮断を行います。 このとき,吹き付けられたガスの流れにより,アークの電位(アーク電圧)や導電径は時間的に大きく変化します。 これらのアーク特性は,遮断器の電流遮断性能に大きな影響を与えます。

近年では,ガス遮断器用のSF6ガスの排出規制に伴いガス遮断器の小型化・コンパクト化がどんどん進んでいます。 さらに,少量の消弧ガスで最大の消弧性能を発揮することが可能な消弧室やガス吹き付け方式の開発が進んでいます。 そのような中で,ガス吹き付け時のアーク特性の空間的・時間的な変化を精確に測定できる手法が強く求められています。 一方で,アーク特性の測定方法として従来から用いられている探針プローブ法や分光計測法では測定機器の配置の問題により, 消弧室内のアークへの擾乱を避けられません。 そのため,非接触かつ高精度でアーク特性の空間的・時間的な変化を測定可能な方法を開発する必要があります。

私たちの研究室では,アークやガス流に影響を与えない新しいアーク特性測定方法の開発を目指しています。 アーク特性の非接触測定法として,現在は静電誘導を利用した測定法を研究しています。 Fig.B-2は,静電誘導を利用したアーク電位測定の概念図を表しています。 図のように電極間に導体を配置した場合,アークが点弧して際には静電誘導により導体に電位が誘導されます。 この誘導された電位はアーク電位に依存しています。 そのため,誘導された電位を測定し,さらに電気回路論に従って検出回路の回路方程式を立てて解くことで, アークの電位を復元することができます。 また,この方法ではアークと導体間の静電容量C01を復元することも可能です。 アークと導体間の静電容量はアークの導電径に依存して変わることから,アークと導体間の静電容量を復元することで, それを基にしてアークの導電径を推定することも可能です。

これまでに,導電径や電位が既知の抵抗素子を対象として,この測定方法を適用してきました。 Fig.B-3は,抵抗素子に対してステップ的に変化する電圧を印加した際の印加電圧(黒実線)と その印加電圧に対する電位復元の結果です。 Fig.B-2に示したような検出回路の出力電圧vm と回路方程式を用いることで,抵抗素子への印加電圧vresを復元しています。 この図から,抵抗素子への二つの電圧印加条件のどちらでも,印加された電圧と復元された電圧がよく一致していることがわかります。 電圧を復元する過程で,検出用導体とアーク間の静電容量C01を復元することができるため, その結果を基にして抵抗素子の導電径を出すことにも成功しています。 現在は,この測定方法を実際のアーク測定に適用するために, 検出回路の改良を行っています。 遮断器内のアークは急激な電位の変化を伴うため,この急激な電位の変化に対応可能なアーク特性の検出回路の構築を目指して, 実験及び回路シミュレーションの両面から研究を進めています。

B-2:SiC系パワー半導体を用いたアークレス直流遮断技術の開発

皆さんも知ってのとおり我々は現在,交流給電された電気を用いて生活をしています。 しかしながら最近では,配電時の損失の観点などから直流給電にも注目が集まっており,一部のデータセンターなどでは既に実用化がされています。 直流給電用の低圧力流配電系統では,短絡事故時の故障大電流から系統を保護するために, 遮断器が設置されています。 現在はFig.B-4に示したような気中遮断器が多く用いられており,可動接点と固定接点を離すことで電流遮断を試みます。 この時に接点間にアークが生成してしまうことから,気中遮断器では消弧グリッドを利用したアークの消弧を同時に行うことで電流遮断を完遂します。 しかしながらこの時,高温のDCアークにより遮断器の内部部品が損耗してしまう問題や,遮断時間の制御が難しいといった問題があります。

この問題に対して,現在はパワー半導体のスイッチング機能を用いることで電流遮断が可能な, 「半導体型遮断器」 の開発が世界中で行われています。 パワー半導体型遮断器は,アークが発生しない,遮断時間の制御が容易そして繰り返しのスイッチングが可能であるといった 多くのメリットがあります。 しかしながら,パワー半導体にはオン抵抗が存在します。 そのため,パワー半導体を介して給電すると半導体の部分での平常運転時における電力ロスが大きい問題があります。 また,もう一つの問題が遮断動作時における素子の破壊です。 半導体型遮断器では遮断動作時に,内部のパワー半導体に大きな熱的・電気的な負荷がかかります。 この負荷が素子の定格を超えると素子が壊れ,常に導通状態になるため, 遮断動作時に素子の定格を超えない回路構成や動作方法を考える必要があります。

私たちの研究室では,パワー半導体としてSiC-MOSFETを用いることで,この問題の解決を試みています。 SiC-MOSFETのオン抵抗はSiの1/10程度であり,低損失での給電が可能です。 また,SiC-MOSFETは耐電圧特性や耐熱性にも優れた素子です。 Fig.B-5は,我々が考案している限流抵抗方式を用いたSiC-MOSFET半導体型遮断器の概念図です。 この遮断器は限流部(FET-C)と遮断部(FET-I)に回路が分かれており,源流部ではSiC-MOSFETと並列に限流抵抗が挿入されています。 この遮断器ではまず先にFET-CのDrain(D)-Source(S)間抵抗を大きくすることで電流を限流抵抗へと流し, 直流電流の限流を行います。 そして,十分に限流されたところでFET-IのD-S間抵抗を大きくすることで,アークレスで電流を遮断します。 Fig.B-6が,本方式を用いて実際に実験を行った際に得られた,各部における電流の時間推移です。 この実験では,電流が60-70 A辺りに来たところで一連の遮断動作を行うように設定しています。 非常に短い時間での直流電流遮断に成功していることがわかります。 このような方式を用いることで,それぞれのFETにかかる負荷を小さくしつつ,より大きな電流や電圧レベルでの直流遮断が可能です。

実験や回路シミュレーションを併用して研究を進めることで,より大電流域や高電圧域での遮断が可能な 回路構成の検討や,その際にそれぞれの素子にかかる負荷の計算も行っています。