A.大電力・大電流制御B.アーク・遮断器への新技法適用C.給配電システムの解析

A.   大電力・大電流制御に関する研究

電力システムにおいて短絡故障が発生すると,故障個所からシステム全体に短絡大電流が流れてしまい,システム全体が壊れる恐れがあります。 そのため,故障時において故障個所と系統を切り離すために遮断器が設置されています。 遮断器にも様々な種類がありますが,電流遮断にガスを用いる遮断器を「ガス遮断器(GCB:Gas Circuit Breaker)」と呼びます。 研究テーマA-1やA-2では,このガス遮断器の高性能化に関する研究や,環境問題に配慮した遮断器の開発に取り組んでいます。

自動車には非常に多くのモータが使われています。 直流モータ内にはブラシや整流子と呼ばれる部品が組み込まれており,... また,電気自動車(EV)には,回路系において短絡事故が発生した際に故障個所と駆動制御回路を切り離すためにEVヒューズが 搭載されています。 このEVヒューズにおける遮断過程では,ヒューズ内部でアークが生成されることから,アークを迅速に消滅させる必要があります。 近年ではEV用車載電源の容量や電圧が上昇傾向にあることから,EVヒューズに対してより高いアーク消弧性能が求められています。 研究テーマA-3やA-4では,自動車に搭載されているモータやヒューズの高性能化に関する研究に取り組んでいます。

A-1:高温ガスにおける熱分解粒子・熱力学・輸送・電気絶縁特性の計算

Fig.A-1(a)は,ガス遮断器の内部構造の概要図を表しています。 遮断器では,事故時において電極を開極することで電流の遮断を試みますが,このときに電極間に「アーク」と呼ばれる 高温のプラズマが生成されます。 一般的に,開極開始時のアークは温度が非常に高くさらに導電性が高いため,このアークを介して電流が流れ続けてしまいます。 そのため,電流遮断のためにはアークを迅速に消弧させる必要があります。

Fig.A-1(b)は,ガス遮断器における交流大電流遮断過程の概念図を表しています。 交流電流の場合は,電流がゼロになる点(アークへのエネルギー入力が最も低い点)で, アークに対して消弧性能が高いガス(消弧ガス)を吹き付けます。 この消弧ガスでアークを冷却し,導電性を失わせることで電流遮断を試みます。 この図では第二電流ゼロ点において,電流遮断に一旦成功しています。 ここで,電流遮断が起こると,過渡回復電圧(TRV: Transient recovery voltage)と呼ばれる 電圧が電極間に生じます。 このとき,電極間に残留している消弧ガスの耐電界特性(臨界電界)がTRVよりも下回ってしまうと, 電極間で絶縁破壊が起こってしまい,アークが再び点弧してしまいます。 そのため,完全な電流遮断のためには消弧ガスの耐電界特性を知ることが非常に重要です。

現在,消弧ガスとしてはSF6と呼ばれるガスが広く用いられています。 しかしながら,SF6の地球温暖化係数はCO2の22800倍と非常に高く, その使用量の削減が求められています。 使用量削減については,遮断器のコンパクト化(消弧室を小型化することで必要なガス量を減らす)ことが進んでいます。 先ほど述べた通り,大電流の遮断には耐電界特性(電界印加時の電気的な絶縁特性)が非常に重要です。 ガス遮断器のコンパクト化に従い,電気的な絶縁特性はより一層重要になっています。

Fig.A-2は,SF6ガスの化学粒子組成の計算結果を表しています。 化学粒子組成の計算結果や様々な粒子間の衝突現象を考慮して Boltzmann方程式と呼ばれる希薄気体に対する運動論的方程式を解くことで, その気体の臨界電界を最終的に求めることができます。 Fig.A-3は,SF6ガスの臨界電界の温度依存性を表しています。 この図から,SF6ガスは温度の上昇と共に臨界電界が下がります。 よって,電荷印加時に高温のSF6ガスは比較的絶縁破壊しやすいことがわかります。

私たちの研究室では,臨界電界を主として様々なガスに対する耐電界特性を計算により求めることで, 消弧ガスとしての性能を検討してます。 計算対象のガスには,先ほど紹介したSF6だけではなく, SF6の代替ガスとして期待されている O2,N2およびCO2といったガスやそれらの混合ガスも含まれています。 また,最近では遮断器の消弧室ノズル材料(PTFE/BN)の蒸気がSF6に混入した際の耐電界特性も重要になっている観点から, PTFE/BNの溶発分解蒸気が混入した高温SF6ガスの臨界電界 の数値計算にも積極的に取り組んでいます。

これまでに,SF6ガスに様々な高温蒸気が混合された場合や, N2,O2,およびAirなど様々な気体に対する高温化学組成およびガス特性を計算しています。

A-2:電力システムにおける環境調和型アーク遮断法の開発

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A-3:自動車内DCシステム用ヒューズの高電圧化電流遮断法の開発

電気自動車(EV)やハイブリット電気自動車(HEV)には,回路故障時の短絡大電流(数千 A)から 自動車の駆動制御系を保護するためにEVヒューズが組み込まれています。 Fig.A-4は,EVヒューズ内の構造を模式的に表しています(エレメントの形状は実際のものとだいぶ違います)。 この図に示すように,EVヒューズ内には銅製のエレメントと共に珪砂が封入されています。 大電流の遮断時には,銅エレメントがジュール熱で溶断することで回路遮断を試みます。 しかしながら,大電流遮断時には銅蒸気がプラズマ化することでヒューズ内に高温の直流(DC)アークが点弧してしまうことがしばしばあります。 このDCアークは導電性が非常に高いため,アークが点弧した状態では回路遮断を行うことができません。 そのため,このDCアークを消弧させるための消弧媒体として,ヒューズ内の珪砂が使用されます。 高温のDCアークにより珪砂が蒸発することで,アークからエネルギーを奪いアークの温度や導電性を低下させ, DCアークを消弧へと導きます。 しかしながら,近年ではEV用バッテリー容量や電圧の増加と共に遮断すべき電流も増加していることから, 珪砂のみでは迅速なDCアーク消弧が難しくなっています。

横水研究室では,珪砂中におけるDCアークの消弧能力を向上させるための研究を進めています。 DCアークの迅速な消弧のためには,アークの抵抗を上昇させることで,DC電流を限流させる必要があります。 これまでに,珪砂中において電極間に高分子(PA66やPMMAなど)製の円筒を配置することでアーク電圧(つまり,アーク抵抗) を上昇させることができ,より短い時間での電流遮断が可能であることを見出しています。 これは,円筒内で形成された高温のアークが円筒内壁と接触することで高分子材が溶発したり,アーク径の膨張が制限されることで アーク抵抗が増加したためだと考えています。 また,このアーク電圧の上昇の程度は,高分子の物性や形状,および円筒内部への珪砂封入量に大きく影響される こともわかっています。 高分子の種類・形状や円筒内の珪砂封入状態について検討することで,さらにアーク電圧を上昇できないかを検討しています。 また,遮断時に生成される高温ガスの組成や熱力学特性(比熱やエンタルピーなど)・輸送特性(導電率や熱伝導率など)も 理論的に計算することで,ヒューズ内アークの状態を検討しています。

この様なアークの消弧現象の解明のためには,アークに含まれる粒子の種類や密度を知る必要があります。 そのため,アーク内の様々な粒子の分布や密度を二次元的に計測できる測定方法の開発にも取り組んでいます。

A-4:車載DCモータのブラシ・整流子片開離過程での電圧・電流の過渡推移

直流モータは様々な自動車部品に使用されています。 近年では,アイドリングストップによるエンジンの始動回数の増加やリチウムイオンバッテリーの導入による高電圧化などにより, ブラシの寿命が低下しています。 一般的に,ブラシの寿命が直流モータの寿命を大きく左右することから, ブラシの寿命を長くすることが要求されています。

Fig.A-6は,直流モータ内部の様相を模式的に表しています。 直流モータの中にはブラシ(Brush)と整流子(Commutator)が配置されており,整流子片は回転が可能です。 整流子片が回転し始めると,ブラシと接触する整流子片が次々に切り替わります。 これに伴いブラシ→整流子片を流れる電流の経路が次々に代わることでモーターは回転し続けます。 ブラシから整流子片に流れる電流が,整流子片1から整流子片2に切り替わる(転流する)とき, ブラシと整流子片1の間にアーク放電が発生することがあります。 アーク放電は温度が非常に高く,ブラシの破損(溶解,蒸発)の現認になることから, 転流時においてアーク放電の発生を抑えることがブラシ損耗の低減に繋がります。

私たちの研究室では,ブラシと整流子片の開離過程における接触電圧と電流の転流特性を解明し, ブラシ損耗の低減手法を構築することを目的として研究を進めています。 ブラシと整流子間の電流の転流特性は,実験および理論計算の両方の面からアプローチをしています。 理論計算では,電気回路論やエネルギー保存則に基づく方程式をいくつも立て, それらを数値的に解くことで,ブラシと整流子片の摺動・開離過程における電流や電圧およびブラシ温度の 過渡的な数値シミュレーションを行っています。 これまでに,整流子片が一つの場合における摺動・開離過程の計算において,Fig.A-7に示すような ブラシ-整流子間の接触電圧,整流子片1を流れる電流およびブラシ温度の過渡計算結果が得られています。 この図から,我々の計算から得られた電圧・電流と,実験から得られた電流・電圧のが非常によく一致していることがわかります。 この計算では時刻0 μsにおいてブラシ(黒鉛製)の温度が黒鉛の昇華点を超えていることから, この時刻において生成された黒鉛蒸気と整流子片1の残留電流により,ブラシと整流子片1間にアークが点弧していると 考えられます。