当研究室では、REBa2Cu3Oy (REBCO)
超伝導体を用いた超伝導線材作製技術の開発を行っている。
REBCO超伝導線材の構造は、図1のように金属テープ上に 緩衝層を蒸着し、その上に REBCOをエピタキシャル成長させた構造である。 さらに、超伝導層の保護、局所的な発熱の発散やクエンチ時に電流をバイパスする役割を果たす 安定化層を積層している。それぞれの厚みは、金属テープ: ∼100 μm、緩衝層、超伝導層と安定化層: 数μmである。 金属テープ・・・線材としての柔軟性と強度を考慮して、 ハステロイやニッケルなどが選ばれる。 緩衝層・・・金属テープ元素の超伝導体への拡散による、超伝導膜の成長阻害や超伝導特性の 低下を抑止する働きを持つ。さらに、超伝導体と格子定数の近い材料を選ぶことで、良好な配向性と 結晶性を持った超伝導層を成長させることができる。 REBCOエピ層・・・パルスレーザー蒸着法、有機金属気相蒸着法などの気相成長法や 有機金属堆積法などの固相成長法で作製されている。 超伝導機器への応用には、kmを超える長尺線材が必要となるため、長時間安定で均一なREBCO層を作製 するプロセスの開発が重要である。 セラミクスであるREBCO超伝導体はもろいため、線材として必要な曲げ伸ばしを行うことが できない。しかし、薄くすることで柔軟になり、線材として使用することが可能になる。 また、結晶配向性によっても臨界電流密度が大きく変わるため、試料全体に渡った結晶軸方位の 整列が必要である(参考)。 そのため、エピタキシャル成長を利用して線材の全体にわたって配向したREBCO膜を作製する 技術が必要となる。
図1:REBCO超伝導線材の構造模式図。
REBCO超伝導線材を作製する上で重要なのは、
1. 結晶配向性の良好な緩衝層の作製 これには大きく分けて二つの手法がある。ひとつめは、金属テープ自体を配向させる手法で、 ふたつめは、多結晶(無配向)金属テープ上に緩衝層を配向させる手法である。 ひとつめの手法は、RABiTS法 (Rolling Assisted Biaxially Textured Substrate)である。 RABiTS法では、金属の再結晶を利用して金属テープ自体を配向させる。 金属を圧延し熱処理するだけなため安価である。 ふたつめの手法にはいくつかあるが、代表的な手法はIBAD法 (Ion Beam Assisted Deposition)である。 IBAD法は、気相法を用いて緩衝層材料を堆積させつつ、ある角度からイオンビームを照射すると 特定の方位を向いた結晶だけが成長することを利用している。 RABiTS法よりも良好な結晶配向性を持った緩衝層が得られやすい一方、真空プロセスであるため 設備費やランニングコストが高価である。 近年では製造速度の高速化などによってコストを低減する試みも行われている。 当研究室では、IBAD法による高品質緩衝層の作製に関する研究を行っている。 2. 高い超伝導特性を持つREBCOエピ膜の作製 超伝導線材を用いた応用の多くは超伝導マグネットである。 そのため、強磁場環境下で大きな電流を流すことができるREBCOエピ膜を成長させる技術が必要となる。 当研究室では、 「薄膜結晶成長制御による高品質機能性薄膜の作製」 や 「ナノ構造制御による機能性薄膜の性能向上」 を利用して、金属テープ上で高い超伝導特性を示すREBCO膜の作製に関する研究を行っている。 3. 長尺に渡って超伝導特性が均一なREBCOエピ膜の作製 超伝導線材を使った応用(送電ケーブル、超伝導マグネット)には長尺な線材が必須である。 その長さに加えて、臨界電流などの超伝導特性の均一性 も重要である。 局所的に超伝導特性が低い部分が存在すると、大電流通電時にその部分で超伝導状態が破れて 常伝導転移する。そして、常伝導転移部分がたちまち線材全体に広がるクエンチが起きる。 最悪の場合には、ジュール熱によって線材が焼損する。 これを回避するため、長尺に渡って超伝導特性の均一なREBCOエピ膜の作製技術が必要となる。 4. 低コスト線材作製プロセスの開発 現在産業展開が進んでいる超伝導線材は、主に真空プロセスを用いて作製するため、コストが高い。 このコストを低減するためには、 製造速度の高速化と収率の向上が必要である。 当研究室では、インプルーム-PLD法などを用いた高収率プロセスの開発を行っている。 |