ナノ構造制御による機能性薄膜の性能向上

ナノレベルで薄膜の組織を制御することで、 機能性材料の性能を向上させることができる。

 超伝導体では、ナノサイズの非超伝導相の添加によって 超伝導体中に侵入した磁束線の運動が抑制され、磁場中における臨界電流密度が向上する。 (つまり、より強力な電磁石を作ることができる。)
 また、熱電変換材料の場合、ナノサイズの異物によって フォノンが散乱されるために熱伝導率が低下し、性能指数が向上することが期待される。 (厳密にはキャリアも散乱されるため、異物のサイズ、間隔などを最適化する必要がある。)

 機能性酸化物薄膜のナノ構造を制御するために、薄膜中で凝集して 自己組織化する異物の添加が行われる。 また、本研究室で開発した 低温成膜法(Low Temperature Growth; LTG法)によって、 固溶体を形成する材料系であえて固溶体を形成させるなどの手法もある。


図1: BaZrO3を添加したSmBa2Cu3Oy薄膜の 断面透過型電子顕微鏡像。
基板表面に垂直に、ナノロッド状のBaZrO3が成長している(赤矢印)。


 図1はBaZrO3 (BZO)を添加したSmBa2Cu3Oy (SmBCO)薄膜の断面透過型電子顕微鏡像である。 この像から、SmBCOの中に黒いロッド状の物質が見られる。組成分析や電子線回折の結果から、これは ナノロッド状に自己組織化したBZOであることが 明らかになった。
 BZOナノロッドは、直径が < 10 nmで、量子化磁束の断面半径と同程度である。そのため、 磁束線の運動を抑制するピンニングセンターとなりうる。 実際に、BZOを添加した超伝導薄膜では、磁場中における臨界電流密度が劇的に向上することが 多くのグループから報告されている。



図2: 低温成膜法(LTG法)の概略図。基板結晶上に高温でシード層をエピタキシャル成長させる。
次に、シード層上に低温でアッパー層をホモエピタキシャル成長させる。



 SmBCOやNdBa2Cu3Oyなどは、 RE1+xBa2-xCu3Oy (RE=Nd, Smなど)で表される固溶体を形成する。 この固溶体の超伝導転移温度は低いため、できる限り生成を避ける成長条件を探索することが 重要である。
 しかし、ナノサイズの固溶体を分散させることができれば、磁場が印加されたときに固溶体が 常伝導状態に転移し、ピンニングセンターとなるため、磁場中において超伝導特性が向上 することが溶融バルクの研究から明らかになっている。


 我々は、LTG法でSmBCO薄膜を作製すると、 固溶体と非固溶体が分離し、固溶体が数十nm程度の大きさで分散 することを発見した。
 図3は、断面透過型電子顕微鏡に付随した分析装置による元素マッピングから明らかになった、 SmBCO薄膜内部の固溶体の分布である。これらの固溶体が磁場中で常伝導転移し、磁束の ピンニングセンターとなるため、磁場中で高い超伝導特性を示す。

図3: LTG法で作製した Sm1+xBa2-xCu3Oy薄膜の 断面透過型電子顕微鏡像。
グレーの濃い部分ほど置換量xが多い。


 また、複数のREBa2Cu3Oy (RE=La, Nd, Sm, Yなど)の混晶薄膜を作製すると、薄膜中に数十nmオーダーでRE濃度の 変調が現れ、磁場中における臨界電流密度が向上する結果が得られている。
 このRE変調の原因は不明であるが、RE変調メカニズムの解明とさらなる超伝導特性の向上のため、 最適なREBCOの組み合わせを探索している。



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