「熱電変換」って何?
熱電変換は、熱から電気を、電気から熱を取り出すことができる現象です。
ここでは、熱電変換に関わる物理現象について説明します。
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ゼーベック効果(熱→電気)
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ペルチェ効果(電気→熱)
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トムソン効果
ゼーベック効果(熱→電気)
ゼーベック効果とは、下図のように、ある物質の両端に温度差を与えると その両端間に電位差(起電力)が生じる効果です。 このゼーベック効果はすべての物質で生じますが、物質によって 起電力の大きさが異なります。特に、半導体材料では起電力が大きく、熱電変換材料として 盛んに研究が行われています。 以下で、このゼーベック効果の発生原理に関して説明します。
図 ゼーベック効果の概略図。物質の両端に温度差を加えることで、キャリアの密度バランスが崩れ、 起電力が生じる。
物質を加熱すると、
キャリア(負の電荷を持った電子、あるいは正の電荷を持った正孔)
が 生じます。一方、冷却されている端ではキャリアの発生がほとんどないため、 キャリア密度バランスが崩れ、加熱端から冷却端にキャリアが流れます。 しかし、ある程度のキャリアが冷却端にたまると、それ以上のキャリアの移動が出来なくなります。
一方、加熱端においてキャリアが流れ出て行った跡は、キャリアと反対符号の電荷を 持つため、加熱端と冷却端の間に電位差が生じます。これがゼーベック効果です。 この状態で加熱端と冷却端を導線でつなぎ負荷を与えることで、電力を取り出すことができます。
この時の電位差を
V
として、加熱端と冷却端の温度差を
ΔT
とすると、 この二つには
V = α ΔT
の比例関係があります。ここで、比例定数
α
はゼーベック係数
と呼ばれ、熱電変換特性を表す指標の一つであり、この値が大きいほど 良い熱電変換材料となります。
ほとんどの物質は、キャリアが電子か、あるいは正孔かで分けることができます。 キャリアが
電子の場合は
α
は負
に、
正孔の場合は
α
が正
になり、 発生する電位差の符号が逆になるため、キャリアが異なる二種類の材料を交互に 直列接続することでより大きな電力を取り出すことができます。
以上を利用して、火力・原子力発電所から体温に至るまで
大小様々な熱源から電力を取り出すことが可能
になります。
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ペルチェ効果(電気→熱)
ペルチェ効果はゼーベック効果とは反対に、電気を熱に変換する現象です。 すべての物質で生じますが、ゼーベック効果と同様、熱電変換材料で特に大きな効率が得られます。 以下で、このペルチェ効果の原理について説明します。
図 ペルチェ効果の概略図。金属-熱電変換材料-金属と接合し電流を流すと、
キャリアの流れる方向に応じて、接合面で吸熱あるいは放熱が起こる。
上図に示したように、金属と熱電変換材料を接合させると、キャリアの流れる道 に「段差」が生じます
※1
。この段差に向かってキャリアが流れてくると、 この段差を乗り越えるために必要なエネルギーを周りから熱エネルギーとして吸収します。 このため、周囲の温度が下がります。 反対に、熱電変換材料の右端から金属に降りる場合には、余分なエネルギーを周りに 放出するため、周囲の温度が上がります。これがペルチェ効果です。
微少時間
Δt
の間にこの接合部から放熱あるいは吸熱される熱量
ΔQ
は接合を流れる電流
I
を用いて、
ΔQ = Π I Δt
と表すことができます。ここで、
Π
はペルチェ係数
と呼ばれ、
α
と同様に熱電変換性能の指標になっています。
図と式から想像できる通り、キャリアの流れる方向が変われば、吸熱と発熱が生じる接合面も 入れ替わるため、任意の場所を加熱したり冷却したりすることができます。
また、ゼーベック効果と同様に、キャリアが異なる二種類の材料を交互に直列接続することで、 より効率よく電気を熱に変換することが出来ます。
従来の冷蔵庫やエアコンを使った冷却では、コンプレッサーや冷却媒体ガスなど必要とするため、 設備がどうしても大がかりになってしまいます。 しかし、ペルチェ効果を利用した冷却ではそのような設備は必要ないため、
小型な冷却装置
を作ることができます。
実際に、卓上の小型冷蔵庫やパソコンのCPUクーラーとして市販されています。
※1 キャリアの運動に対するエネルギーの段差であり、実際の凹凸ではない。
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トムソン効果
トムソン効果とは、温度勾配を加えた物質に電流を流すと、電流に比例した放熱、 あるいは吸熱を生じる現象です。また、電流の方向によって放熱、吸熱が変わります。
電流による放熱現象として、ジュール発熱がありますが、これは電流の二乗に比例し、 また電流の方向には無関係であるため、トムソン効果とは異なっています。
以下で、このトムソン効果の原理について説明します。
図 p型材料(キャリアが正孔)におけるトムソン効果の概略図。
温度勾配と電流方向の関係に応じて、放熱・吸熱が起こる。
上図の様に、キャリアが正の電荷を持つ正孔の物質の場合、その中心を加熱すると ゼーベック効果と同様に、正孔が加熱されていない両端に集中し、加熱されている 中心部分は負の電荷を持つ状態になります。すると図に示した通り、両端から中心に 向かって内部電場が生じます。この状態で図の様に外部電源を接続し電流を流すと、 右から左に向かう外部電場が印加され、p型材料の右端から正孔が流れ込みます。
この時、右端から中心に向かう正孔の流れは、外部電場に加えて余分に内部電場の助けも 借りて運動するため余剰のエネルギーを放出し、
放熱
が 起こります。
一方、中心を過ぎて左端に向かう場合には、外部電場と内部電場の向きが反対で あるため、内部電場の分だけ運動エネルギーを損することになります。これを補い、 左端まで正孔が流れるために、周囲から熱エネルギーを吸収する
吸熱
が起こります。 n型材料の場合には、内部電場の向きが逆になり、また、吸熱、放熱も逆になります。
この様に、温度勾配と電流の向きによって吸熱・放熱が変わる現象がトムソン効果です。
このトムソン効果によって、放熱あるいは吸熱する単位体積当たりの熱量
q
は、 物質の電気抵抗率
ρ
、電流密度ベクトル
J
と温度勾配
∇T
、また、トムソン係数
Θ
を用いて、下式で表されます。
q = ρ
J
2
- Θ
J
·∇T
ここで、右辺第一項はジュール発熱を表しており、
J
の二乗に比例する ことから、電流の向きに依存しないことがわかります。 一方、右辺第二項が
トムソン効果による放熱・吸熱
を示しており、
J
の向き、あるいは
∇T
の方向によって変わります。
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