固体からの熱電子放出とプラズマからの熱流による非線形現象に関する研究
プラズマ-固体壁相互作用の研究において、熱電子放出による非線形現象(ヒステリシス特性)を解析的、実験的に明らかにしました。ある特定のプラズマパラメータ領域において、ターゲット板温度、シース電圧、及び熱電子放出の関係式を解析的に解きました。この時に得られるターゲット板温度Tとシース電圧φsのグラフを図1に示します。

図1において、電子密度が低い場合グラフの交点は低温度状態の1点(c点)のみです。一方、電子密度が高い場合グラフの交点は高温度状態の1点(h点)のみです。ところが、これらの間の電子密度では交点が3つ(c点、t点、h点)得られます。t点では、ターゲット板の温度上昇に伴い熱電子放出量が増加し、結果としてシース電圧が減少して流入する熱流が増加し、さらなるターゲット板の温度上昇が起きていることが考えられます。直線型高熱流プラズマ装置NAGDIS-Iにおける実験では、電子密度を低密度から高密度へ変化させてゆくと、ある密度で急激なターゲット板温度上昇とシース電圧減少が観測されました。詳細はPhys. Plasmas 3 (1996) 281にまとめてあります。
プラズマ対向板への熱流入に対するプラズマ断面構造と熱電子放出の効果
直線型プラズマ発生装置NAGDIS-Iでのヘリウムプラズマをタングステンターゲット板へ照射した実験において、熱電子放出による非線形現象(ヒステリシス)が観測され、結果としてタングステンの融解が起きるという実験結果が得られました。しかし、この実験においては0次元モデルでの数値解析により予想されるプラズマパラメータよりはるかに低い領域でヒステリシス現象が起き、またターゲット板へ照射しているプラズマ面積に比べて局所的な小さな領域でのターゲット板温度上昇が観測されました。この矛盾の解明のために、磁力線に垂直な方向のプラズマ内のポテンシャル分布とターゲット板の熱伝導を考慮した数値解析を行い、実験結果との比較を試みました。

その結果、プラズマ内にポテンシャル分布が存在すると、タングステン板は導電体であるためにターゲット板全体としては電気的中性条件を満たしているにもかかわらず、局所的にシース電圧の小さい領域が形成され、その領域に電子による熱流が集中し、ターゲット板温度上昇が起き、そして、タングステンターゲット板の熱伝導と、熱電子放出のバランスにより状態が変化して行くことがわかりました。そして、プラズマ内のポテンシャルが低い領域でのみターゲット板温度がタングステンの融点を超える解析結果を得るに至りました。
2-D PIC simulation on space-charge limitted emission current from plasma-facing conponents
2-D PIC simulation on space-charge limitted emission current from plasma-facing conponents (7th Plasma Edge Theory, 1999.10, PDF 1.89MB)
Berkeley Codeの概要とプラズマ対向壁からの熱電子放出の解析
Berkeley Codeの概要とプラズマ対向壁からの熱電子放出の解析 (NIFSシミュレーション研究会, 1999, PDF 853KB)
低エネルギー・高粒子束プラズマ照射によるタングステン表面構造の変化
低エネルギー・高粒子束プラズマ照射によるタングステン表面構造の変化(電気学会全国大会予稿, 2001.3, PDF 63.3KB)