スピン軌道トルク(Spin Orbit Torque: SOT)磁化反転やスピン移行トルク磁化反転(Spin Transfer Torque: STT)は伝導電子のもつスピン角運動量と磁化との相互作用を利用し,電流により磁化反転を行う方式です.図1のようにSTT磁化反転はスピン偏極した電流を磁性膜に注入することでスピン偏極電流の角運動量が磁化に移行し,磁化反転を行います.一方,SOT磁化反転は重金属などに電流を流すことにより,電流と垂直方向に発生するスピン流を用いて磁化反転を行います.STT,SOT磁化反転とも高密度MRAMの磁化反転技術として応用するため,その高効率化が追求されています.SOTはSTTと同程度以下の消費電力で10倍程度高速に磁化反転できることや,書き込み時に磁性層に直接電流を流さないため,書き込みと読み出しの際の電流経路の分離が可能などの利点があると考えられています.
 我々のグループでは重希土類(HRE)と遷移金属(TM)合金に着目し,この材料へのSOT磁化反転を行い,SOT磁化反転の高効率化を検討しています.HRE-TM合金はHREとTMの磁化が反平行に結合するフェリ磁性体であり,組成や温度によって,HREとTMの磁気モーメントや角運動量が補償する状況を創り出すことができます.また,組成によってCurie温度の調整が可能で,垂直磁気異方性を示すという工業応用上優れた特性を示します.
 図2は電子ビームリソグラフィーによりGdFeCo膜を十字形に微細加工し,これに面内電流を流すことでSOT磁化反転を観測した結果です.GdFeCo膜厚が5 nmと比較的厚いにもかかわらず,図2のように5 MA/cm2程度の電流密度で磁化反転に対応するHall電圧の変化を観測しました.現在,SOTのGdFeCo組成依存性や温度依存性などの検討を進めています.

  

図1 スピン移行トルク(STT)磁化反転とスピン軌道トルク(SOT)磁化反転の模式図
*電気学会論文誌A, 140, 106 (2019).

 

図2 GdFeCo(5 nm)のスピン軌道トルク磁化反転

関連論文: K. Kawakami et al., Jpn. J. Appl. Phys. 59, SEEF01 (2019).
加藤剛志ら:電気学会論文誌A, 140, 106 (2019).
B. Dai et al., J. Phys. D Appl. Phys. 50, 135005 (2017).
N. Roschewsky et al., Appl. Phys. Lett. 109, 112403 (2016).
T. Higashide et al., IEEE Magn. Lett. 7, 3505605 (2016).

B. Dai et al., IEEE Trans. Magn., 48, 3223 (2012).
小澤ら.: 電気学会論文誌A, 130, 631 (2010).


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