既存の磁気記録媒体は磁性微粒子が非磁性体内に分散した構造(微粒子媒体)であるが,この構造では現在の記録密度を大きく超えることは難しいと言われています.一方,既存の記録密度より1桁程度高い5 Tbit/in2を狙える技術としてビットパターン媒体が注目されています.ビットパターン媒体は図のように微細加工により1ビットを定義するという新しい媒体です.この媒体を実用化する上で課題となるのが,媒体表面の平坦性の確保とビットごとの磁気特性のばらつき制御です.磁気ヘッドは媒体表面上を数nmの浮上距離で高速に移動するため非常にフラットな媒体が必要となります.また,ビットごとに書込み磁界がばらついては非常にエラーの多い媒体となってしまいます.
研究室では表面平坦性に優れ,磁気特性のばらつきが小さいと考えられるイオン照射型ビットパターン媒体を研究しています.イオン照射型ビットパターン媒体とは局所的なイオン照射により媒体の磁気特性を変化させることでパターニングしますので,イオンエッチングにより媒体を直接削る一般的なビットパターン媒体に比べ表面平坦性に優れ,磁気特性がそろった媒体が作成できると言われています.ただし,イオン照射だけで磁性を完全になくすことが出来なかったため,イオンエッチング媒体に比べ高密度化が難しいと言われてきました.我々はCrPt3という材料が微量のイオン照射により磁性/非磁性転移を起こすことを見いだし,これを用いたイオン照射型ビットパターン媒体の開発を行っています.図はCrPt3を用いることで,50 nm x 50 nmという非常に小さなビットサイズのイオン照射型媒体を実現し,それを磁気力顕微鏡により観察したものです.イオン照射により形成したビットが明,暗のコントラストとして明瞭に観察され,イオン照射により非磁性化した部分は中間のコントラストとして観察されています.現在,1 Tbit/in2を超える密度をイオン照射型方式で実現できることを示すための実験を行っています.
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CrPt3膜を用いて作成したイオン照射型
ビットパターン媒体の磁気力顕微鏡像
(ビットサイズ50 nm x 50 nm)
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