新規量子化磁束ピンニング機構の探索

強磁場発生超伝導マグネット用の超伝導線材を実現するため、超伝導体中に侵入した 磁束量子の運動を抑制する 新規磁束ピン止め材料の探索を行っている。

図1: 超伝導線材中に侵入した磁束量子の模式図。
ボルテックスは、磁束量子を中心として生じる渦電流である。


 図1に、超伝導体中に侵入した磁束量子の模式図を示す。この磁束量子が運動すると ジュール損失が発生し、大電流を流すことができなくなる。 おおまかな損失の発生過程は次の通りである。

 長手方向に電流を流すと、磁束量子にローレンツ力が働き、磁束量子が運動を始める。 磁束量子の運動によって電磁誘導が起こり、電場が発生する。 電場の発生は抵抗の発生を意味し、ジュール損失によって電力エネルギーが損なわれる

 この損失を抑えるには、超伝導体中に磁束ピンニングセンターを導入し、磁束量子の運動を 抑止することが効果的である。 代表的なピンニングセンター(PC)は形状ごとに下記の通りに分類される。
  1. 0次元PC
  2.   
    空格子点などの点状結晶欠陥。
  3. 1次元PC
  4.   
    らせん転位、刃状転位や柱状欠陥等の線状結晶欠陥。
  5. 2次元PC
  6.   
    結晶粒界、双晶境界等の面状結晶欠陥。
  7. 3次元PC
  8.   
    常伝導析出物、弱超伝導部分等の超伝導体中の異相。
 どのPCにおいても磁束量子をピン止めする原理は、 超伝導状態と非超伝導状態の自由エネルギー差である。 また、PCの形状に伴って、磁束量子の運動を抑止する力が磁場の印加方向に対して変化する。

 当研究室では、新規磁束ピン止め機構の探索として、 自由エネルギー差の大きな物質の探索と 自己組織化ピンニングセンターの探索を行っている。


 最近では、超伝導体中で自己組織化して1次元あるいは3次元PCとなる物質が注目されている (参考)。 たとえば、BaZrO3はREBa2Cu3Oy (REBCO) 超伝導体中でナノロッド状に自己組織化し、ナノロッドに平行な磁場に対して大きなピン止め力を示す。

 しかし、添加量の増加に伴って超伝導転移温度が低下するという問題点がある。 また、これらのPCは数密度が多いほど多くの磁束量子をトラップし運動を抑制できるが、 同時に超伝導体の体積率が減るため、過剰な添加は臨界電流密度を低下させてしまう。 そのため、超伝導転移温度を低下させない添加材料の探索と 最適な添加量の探索が不可欠である。

図2: コンビナトリアル-PLD法の模式図。レーザーのオン/オフ、ターゲットの交換と
パターンプレート(茶色の板)の運動を連動制御する。


 これらの探索は、膨大な数の試料を作製し評価する必要があり、 莫大な労力と時間を要する。
これを高速に行うため、 コンビナトリアル-PLD法を用いて試料作製の高速化 を行っている。

 コンビナトリアル法はもともと 創薬分野で提案された方法論であり、 「パラメータを系統的に変えたたくさんの試料を一度に作り、評価」 することである。

 図2にコンビナトリアル-PLD法の模式図を示す。 ターゲットから蒸発した物質が基板上(灰色)でエピタキシャル成長するが、 ある形の穴が空いたパターンプレート(茶色)を用いることで、一枚の基板上に 膜厚が連続的に変化した薄膜を作ることができる。


図3: コンビナトリアル-PLD法で作製した試料の断面模式図。
左端から右端に向かって、BからAへと連続的に組成が変化する。


 図3に、コンビナトリアル-PLD法で作製した試料の断面模式図を示す。 物質Aのターゲット(水色)と物質Bのターゲット(緑色)を交互に交換し蒸着することで、 膜厚の異なるAとBの薄膜をナノレベルで積層させることができる。 このとき、数nmの膜厚で積層させることでAとBが拡散・混合して、 一枚の基板上に様々な組成を持った薄膜 を作製することができる。

 当研究室ではこのコンビナトリアル-PLD法を用いて、 新規磁束ピン止め材料および 最適添加量の高速探索を行っている。



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