非接触プラズマに関する研究
1. はじめに
磁場閉じ込め熱核融合炉の実現に対して、ダイバータによる熱・粒子性御は最重要課題の1つとして認識されてきています。主プラズマから流出したプラズマ粒子束は、そのほとんどがスクレイプオフ層(SOL)を通じてダイバータへと流入します。そして、このプラズマ粒子束が直接ダイバータ板へ到達すると、その熱負荷は数十MW/m2にもなり、ダイバータ板の損耗が問題となります。そこで、プラズマ粒子束をダイバータ板に到達する前に中性化する(プラズマ体積再結合)ことによって熱負荷の低減を図る方法が最も有力な方法として考えられています。この時、ダイバータに形成されるプラズマを「非接触プラズマ」と呼び、その現象を「プラズマデタッチメント」と言います。我々のグループでは、直線型ダイバータプラズマ模擬実験装置NAGDIS-IIにより、非接触プラズマに関する研究を行ってきています。
2. 直線型ダイバータプラズマ模擬実験装置NAGDIS-II

NAGDIS-II装置(図1)は、改良TP-D型直流放電により定常的に高密度プラズマを生成することができます。電子密度は放電電流により、中性ガス圧は真空ポンプの排気量の調節やガス注入量により容易に制御することができます。また、環状型装置(トカマクやヘリカル等)に比べて装置構成が単純でプラズマへのアクセスが容易という利点があり、より詳細な計測を行うことが可能となっています。プラズマの計測は、近紫外可視分光器と二次元CCDカメラを組み合わせたOMA (Optical Multichannel Analyzer)と、径方向に高速掃引可能な静電プローブを用いて行っています。
3. NAGDIS-IIにおける非接触プラズマの形成
高密度ヘリウムプラズマに中性ヘリウムガスを注入すると、プラズマ−ガス相互作用(電離、励起、荷電交換など)によりプラズマはエネルギーを失っていき、図2のような連続スペクトルと高励起準位からの線スペクトルが観測されるようになります。このスペクトルから「放射及び三体再結合」が生じ、プラズマが空間で中性化されていることがわかります。また、スペクトルを解析することによりプラズマの電子密度や電子温度を知ることができます。

最近では、上述の「放射及び三体再結合」に加えて、分子イオンの「解離性再結合」や正イオンが負イオンと相互中性化する「荷電交換再結合」が、水素分子により活性化されるという「分子活性化再結合」が注目されています。我々のグループでは、水素及びヘリウムプラズマに水素ガスを注入することにより、非接触プラズマの形成と構造に対する「分子活性化再結合」の影響について研究を行ってきています。
3. 熱パルスが非接触プラズマに与える影響
現在計画中である国際熱核融合炉 (ITER) の定常運転に際してはダイバータ領域における非接触プラズマの形成が重要であるとともに、“Edge Localized Mode (ELM)” と呼ばれる不安定性を伴った “H-mode” という炉心プラズマの閉じ込めの良い状態での運転が必要であると考えられています。ELMとはプラズマ周辺部からの熱や粒子の吐き出しを伴う周期性のある現象であり、これによって炉心プラズマ中の不純物(ヘリウム灰等)を制御することが考えられています。しかし、この時吐き出された熱や粒子は瞬間的なパルスとしてダイバータ部へと流入し、非接触状態を崩壊させダイバータ板へ過大な損耗を与える可能性が指摘されており、その詳細な解明が必要となっています。
現在、NAGDIS-II装置においては高周波加熱によりELMを模擬した熱パルスを生成し、非接触プラズマに入射する実験を行っています。この時のEnd Plateにおける浮遊電位、イオン飽和電流の時間変化を図3に示します。

直線型プラズマ発生装置 NAGDIS-II におけるプラズマ−ガス相互作用に関する研究
1. はじめに
ダイバータ板はその構造上、局所的に数十MW/m2 にも達するプラズマによる大きな熱負荷にさらされます。定常あるいは準定常運転を目指している次期大型熱核融合実験炉 ( ITER etc.) では、プラズマとガスの相互作用によってダイバータ板前面に磁力線に沿って急峻にプラズマ圧力の減少する非接触プラズマ (Detached Plasma) を生成することで、熱負荷の除去を検討しています。我々は、非接触プラズマの発生機構や内在する物理過程の解明を目指して、高周波プラズマ加熱装置を備えた直線型ダイバータプラズマ模擬実験装置 NAGDIS-II を用いてプラズマ-ガス相互作用に関する様々な研究を行っています。
2. 直線型ダイバータプラズマ模擬実験装置 NAGDIS-II の概要

Fig.1 に直線型ダイバータプラズマ模擬実験装置 NAGDIS-II の模式図を示します。磁場強度 0.25 T で直径 ‾ 5 cm の高密度高熱流プラズマ ( < 6 × 1019 m-3 ) を生成可能です。装置は放電部、高周波加熱部、プラズマテスト部により構成され、装置長 2.8 m、内径 0.2 m のSUS製二重水冷の円筒真空容器からなります。プラズマの生成は、いわゆる TP-D 型直流放電ですが、陰極に外部加熱型熱陰極を採用することで従来の TP-D 型放電では困難であった高密度水素放電が安定に得られるという特徴を有します。プラズマテスト部は大容量ターボ分子ポンプ (2000 liter / sec) を二台用いて排気され、放電部とプラズマテスト部の高い中性ガス圧力差を実現しています。このため、安定したプラズマ源によって 非接触プラズマに関する実験を行うことができます。高周波加熱電源には、SIT (Static Induction Transistor) インバータ電源を用いています。また、プラズマ加熱アンテナには位相列4ループアンテナを用い、各々独立にインバータ電源に接続し任意の電力、位相に設定可能でき、磁力線方向の波長が制御可能です。プラズマ計測系には、高速掃引ラングミュアプローブ、ラングミュアプローブ付き水冷エンドプレート、 Optical Multichannel Analyzer (OMA)、ファブリペロー干渉計、質量・エネルギー分析器を設置しており、詳細なプラズマパラメータの計測が可能となっています。
3. プラズマ - ガス相互作用に関する研究
プラズマとガスとの相互作用に関して、これまでに得られた結果の概略を紹介します。
- ヘリウムガスを用いた非接触ヘリウムプラズマにおいて、三体・放射再結合過程に伴う高い励起準位からの発光スペクトルが観測されました。またそのバルマー系列のスペクトル線の強度から励起準位の占有密度を計算すると、n = 6 以上の励起準位は部分的局所熱平衡状態 (pLTE) にあることが示され、その解析によって非接触プラズマ中の電子温度が 0.5 eV 以下であることが示されました(典型的なAttached Plasma とDetached Plasma からの発光スペクトルを Fig.2 に示します)。
- 非接触プラズマ中では、ラングミュアプローブ計測により得られる電子温度が分光学的に評価した電子温度より非常に高い値を示すことを実験的に観測し、それが非接触プラズマの沿磁力線方向の構造性に起因していることを明らかにしました。
- ヘリウムプラズマに水素ガスを導入することにより、振動励起状態の水素分子を介在した分子活性再結合過程 (Molecular Activated Recombination) を実験的に初めて観測しました。また、その中性ヘリウムのバルマー線の強度比を衝突輻射モデル (CRAMD Code) を用いて解析し、その強度比が分子活性再結合過程を考慮する事によってのみ説明できることを示しました。
非接触プラズマの分光計測
非接触プラズマの分光計測 (2001.3, 電気学会全国大会予稿, PDF 21.1KB)
高周波加熱により生成された熱パルスに対する非接触再結合プラズマの動的応答
高周波加熱により生成された熱パルスに対する非接触再結合プラズマの動的応答 (2001.3, 電気学会全国大会予稿, PDF 39.8KB)