「超伝導」って何?

超伝導体には興味深いいくつかの性質があります。

- 完全導電性(電気抵抗ゼロ)
- 完全反磁性(マイスナー効果)
- 磁束の量子化、磁束量子ピン止め
- ジョセフソン効果

ここではこれらの性質について簡単に説明します。

完全導電性(電気抵抗ゼロ)

ある物質を冷やしていくと、ある温度(臨界温度, Tc)を境に 電気抵抗率が"ゼロ"になる現象です。
下の図は、当研究で作製したYBa2Cu3Oyエピタキシャル薄膜の 電気抵抗率が温度に対してとる変化を示しています。この図から、およそ91.5 Kで電気抵抗が ゼロになっていることがわかります。

なぜ電気抵抗がゼロになるのでしょうか?
そもそも、電気抵抗が発生する原因は、物質の中を進む電子が様々な要因で その運動を邪魔されていることにあります。邪魔をする要因は、 散乱要因と呼ばれており、物質中の不純物や結晶欠陥などが挙げられます。
しかし、超伝導状態にある物質中では、電子が二つ一組になって運動しています(クーパーペア)。 このクーパーペアになることで、超伝導体中の電子が一つの大きな波の様に運動できるようになります。 この波は簡単に散乱要因を乗り越えることができるため、邪魔されずに運動することが可能となり、 ゼロ抵抗が実現されます。


図 YBa2Cu3Oyエピタキシャル薄膜における電気抵抗率の温度依存性。
約91.5 K (-182oC)で超伝導状態に転移。


現在報告されている最も高いTcは、Hg-Ba-Ca-Cu-O系超伝導体の133 K (-140oC)です。超伝導に関する研究分野では、Tcの向上だけでなく、 その発生機構の解明や、新たな超伝導体の発見など日進月歩の研究がされています。

応用に対しては、超伝導体の電気抵抗がゼロという特長を活かして、 大電流の無損失送電強磁場発生マグネットなどが実現可能です。また、 これらを利用したSMES(超伝導磁気エネルギー貯蔵装置)などの高効率エネルギーシステムや MRI(磁気共鳴画像法)などの医療機器の研究・開発が進められています。 さらに、次世代の高速交通手段として実現に向けた研究・開発が進んでいる超伝導リニアモーターカー にとっても、強力な磁場を発生できる超伝導マグネットが不可欠な技術になっています。


図 REBa2Cu3Oy※1超伝導体を使った超伝導線材の基本的な構造。
※1 REはY、La、Nd、Sm、Gdなどの希土類元素。

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完全反磁性(マイスナー効果)

超伝導体は外部磁場を内部から完全に排除する完全反磁性(マイスナー効果) という性質を持っています。 下図にその概要を示していますが、常伝導状態にある場合、磁場は物質の内部を 突き抜けます。しかし、一旦超伝導状態に転移すると、内部を突き抜けていた磁場が 外に押し出され、超伝導体内部には磁場がない状態になります。 また、磁場がない環境にある超伝導体に磁場を加えても、磁場が内部に侵入することは できません。


図 マイスナー効果の概要。常伝導状態にある超伝導体(黄色い球体)に(a)磁場を印加した状態で
超伝導状態に転移させると(矢印 A)、(c)内部の磁場がすべて排除される。(b)磁場がかかっていない
状態で超伝導転移させ、その後磁場を印加しても(矢印 B)、磁場は内部に侵入できない。


マイスナー効果が発生する原因は次の通りです。
超伝導体に磁場がかかると、超伝導体の表面近傍で小さな"電流の渦 (ボルテックス)"が生じます。 このボルテックスは外部磁場を打ち消す方向に流れるため、超伝導体内部では磁場が打ち消された 状態になります。これがマイスナー効果です。

マイスナー状態にある超伝導体に永久磁石を近づけると、内部に磁場を侵入させまいと、 超伝導体が永久磁石から逃げようとする力が働きます。


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磁束の量子化、磁束量子ピン止め

超伝導体は、外部磁場の大きさに対する超伝導体内部への磁場の侵入の仕方によって、 第I種超伝導体第II種超伝導体の二種類に分けることができます。

第I種超伝導体は、臨界磁場(Hc)まで マイスナー状態を維持しますが、それ以上の磁場がかかると超伝導状態が破壊されます。 この第I種超伝導体には、Hgなどの金属元素超伝導体が含まれます。

第II種超伝導体は、 下部臨界磁場(Hc1)までマイスナー状態を維持しますが、 それ以上の磁場になると、超伝導体が一部破壊されて、磁場が部分的に侵入します。 磁場をさらに大きくしていくと、次々と磁場が侵入し、上部臨界磁場(Hc2)で 完全に常伝導状態に転移します。この性質のため、第II種超伝導体は高磁場まで超伝導状態を 維持することが可能で、強力な超伝導マグネットなどに使用されています。 酸化物超伝導体などはこの第II種超伝導体に属しています。


図 混合状態にある第II種超伝導体の模式図。侵入した磁束量子の周りには
ボルテックスが存在しており、その内部は常伝導状態である。

Hc1からHc2の間は"混合状態"と呼ばれています。 混合状態では、超伝導に侵入した磁場は、 φ0 = hc/2e※2 = 2.07×10-7 G·cm2を最小単位として、φ0の整数倍の大きさを持った 無数の磁束線に分割されています(上図参照)。 これが磁束の量子化で、量子化された 磁束線を磁束量子と呼びます。

混合状態にある第II種超伝導体に電流を流すと、磁束量子にローレンツ力が 働き、運動を始めます。この運動に伴って誘導電場が生じ、外部磁場がHc2に 達していなくても超伝導状態が破壊されてしまいます。
この時、下図のように、超伝導体内部に磁束量子の運動を止める "ピン止め点"が存在していれば、 電流が流れても磁束量子は運動せず、理想的にはHc2 まで超伝導状態を維持することが可能になります。ピン止め点となる物としては、 微細な常伝導体や結晶欠陥などが挙げられます。


図 第II種超伝導体中の磁束ピン止め点の模式図。電流が流れると
磁束量子には右手方向にローレンツ力が働くが、ピン止め点にある
磁束量子は運動することができない。


この量子化磁束ピン止めによって、超伝導体中に侵入した磁束量子はしっかりと 固定されるため、下の写真のように、超伝導体が永久磁石上に浮上したり、 永久磁石と一定の間隔を保って、横にしても離れないフィッシング効果が起こります。


図 超伝導体の浮上とフィッシング。(a)永久磁石上に超伝導体が浮上している写真。 (b)量子化磁束ピン止めによって、
横にしても永久磁石から超伝導体は離れない。 (いずれも本学電気系の3年生学生実験にて撮影)。


磁束量子ピン止めは、超伝導応用に対して特に重要になる現象です。 磁束量子ピン止め点を制御することで、より高い磁場を発生する超伝導マグネットの 開発が可能になり、SMESの貯蔵エネルギー量増大や NMR(核磁気共鳴装置)の分解能向上などが期待できます。



※2 h : プランク定数、c : 光速、e : 素電荷

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ジョセフソン効果

超伝導体の中では、電子が一つの大きな波を形成することで電気抵抗がゼロになります。 では、二つの超伝導体が薄い絶縁体を挟んでいる場合にはどうなるでしょうか?

下図に、絶縁体を挟んで置かれた二つの超伝導体の模式図を示しています。 左側の超伝導体1の中の波は赤線で、右側の超伝導体2の波は青線で示しています。 絶縁体が薄い場合(数ナノメートル程度)、それぞれの波が絶縁体を乗り越えて 他方の超伝導体にしみ出します(破線の波)。別々の超伝導体中の波は下図のように 当然ずれています。この時、このずれを無くして同じ波にしようとして、 一方の超伝導体から他方の超伝導体に電流が流れます (直流ジョセフソン効果)。 この電流は電圧がかかっていない状態でも流れるため、通常の物質で生じる トンネル効果とは異なっており、超伝導体に特有の現象です。



図 ジョセフソン効果の概略図。超伝導体1と2の間に薄い絶縁体が挟まれている。


また、一方の超伝導体にだけ電圧をかけた場合、その超伝導体中の波が乱されますが、 直流ジョセフソン効果の場合と同じように、他方の波とのずれを無くそうと 絶縁体を乗り越えて電流が流れます。しかし、電圧はかかったままですので、 再び波のずれが生じ、また電流が流れます。 この繰り返しによって、直流電圧をかけているにも関わらず、交流の電流が 流れる交流ジョセフソン効果が生じます。

このジョセフソン効果を利用した高精度の磁場測定器高速で動作する電子デバイスの研究・開発が行われています。


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